貿易保険とは?海上保険との違いや種類について
海外取引では戦争やテロ、自然災害、輸入制限、取引先における海外への送金制限、取引先の破綻による不払いなどさまざまなリスクが想定されます。
これらの通常の保険では救済できない、リスクによる損失をカバーしてくれるのが「貿易保険」です。
今回は、貿易保険と海上保険の違いや貿易保険の種類についてご紹介いたします。
貿易保険と海上保険の違い
一般的に貿易事務の現場でいう「保険」とは貨物海上保険(Marine Insurance)のことを指しますが、海上保険と貿易保険ではどのような違いがあるのでしょうか?
海上保険は、貿易や運輸の途中で起こってしまったトラブルによって貨物が損傷したり滅失したりした際の損害を補うための保険です。
「海上保険」とありますが、海運だけでなく空運や陸運による貿易にも対応しているものもあるのが特徴です。
また、船上の火災や爆発等の事故だけでなく沈没や転覆等の自然災害も補償内容に含まれます。
貿易条件によって輸出者と輸入者のどちらが保険をかけるのか変わってきますが、どちらの場合でも事故での損害をカバーできるようにかけるケースが多いです。
一方で貿易保険は、投資や融資、輸出入や仲介貿易などの海外取引におけるリスクをカバーしてくれる保険です。
戦争やテロなどによって超過した運賃や回収不能になった商品代金などの金銭的損害を補填してくれます。
ここで、貿易保険の対象となる「非常危険」と「信用危険」とは何かご説明いたします。
「非常危険」とは、カントリーリスク(Country Risk)とも呼ばれる海外取引におけるリスクの一つであり、契約の当事者たちには責任がない不可抗力的な危険のことを言います。
戦争やテロ、革命だけでなく輸入や為替取引の制限、自然災害もこれに含まれます。
相手国の情勢が原因となるリスクが非常危険であるのに対し、「信用危険」とは取引相手が原因となるリスクのことです。
取引先が破産してしまったなどの事態が例としてあげられます。
貿易保険の種類
貿易保険は保険契約の締結方式によって「個別保険」と「包括保険」の2つに分類されます。
「個別保険」とは、リスクを感じる取引のみを対象として付保したい企業や海外取引の経験が浅い企業向けの保険です。
また、包括保険に比べて保険料率が割高に設定されていることや厳しい引受基準が設けられていることが特徴としてあげられます。
「包括保険」とは、複数の取引先との海外取引を継続または反復しておこなう企業向けの保険です。
様々な国・バイヤー向けの取引が保険の対象となりリスクの分散が図られることから、保険料率が割安なのが特徴です。
では、個別保険と包括保険それぞれどのような保険が分類されているのでしょうか。
~個別保険~
● 貿易一般保険(個別)
日本からの直接貿易や日本以外から出荷する仲介貿易も対象となる保険です。
輸出者等が個々の契約毎に選択して、保険契約を締結します。
● 中小企業・農林水産業輸出代金保険
資本金10億円未満の中小・中堅企業、農林水産業団体に限定した保険です。
船積後の代金回収不能リスクをカバーする保険のため、船積前のリスクはカバーしません。
日本からの輸出取引のみを対象としており、1回の取引金額が5,000万円以下、決済ユーザンスが船積から180日までであることなどが利用条件です。
● 限度額設定型貿易保険
特定の海外取引先と定期的に一定額の取引がある場合に適した保険です。
限度額設定型貿易保険は、船積前に一方的にキャンセルされてしまった場合や、
船積後に代金回収ができなくなってしまった場合のリスクを設定した補償限度額でカバーすることが可能可能です。
取引先毎に1年間有効な保険金支払額を設定できることや日本以外から出荷する貨物についても対象となることが特徴です。
~包括保険~
● 前払輸入保険
貨物が輸入できなくなり、輸入契約の合意条件に基づいて前払金の返還請求を行ったにもかかわらず、前払金が返還されなかったリスクをカバーする保険です。
日本以外からの輸入で前払金の額が100万円以上の取引であること、契約書上に前払金の返還条件が指定されていることなどが利用条件となります。
また、信用危険をカバーする場合には、輸出者の格付がEE格、EA格であることが必須です。
この保険の対象外となるリスクとして、自発的に輸入を取りやめた場合や一方的にキャンセルした前払輸入契約、貨物が輸入できないことによる損失などがあります。
● 海外投資保険
外国政府等の介入による収用・権利侵害リスクや外国で発生した天災や戦争などによるリスク、為替取引の制限等による送金不能をカバーする保険です。
海外での出資、株式等の購入、不動産や権利等の取得が保険の対象となります。
● 海外事業資金貸付保険
投資や融資に関する保険であり、特に海外事業における資金提供に伴うリスクをカバーします。
この保険は、貿易保険のなかでも事業拡大や国際的な金融取引に携わる個人や企業向けに設計されたものです。
例えば、海外進出に伴う投資や海外法人への融資において、現地で発生する様々な問題や信用危険により、貸付金元本や利子の回収が困難になる可能性があります。
海外事業資金貸付保険は、こうしたトラブルによる損失や保証債務の履行による損失を補填するための保険です。
● 貿易代金貸付保険
日本の銀行などが外国の輸入者や金融機関に輸出品の代金を貸し付けた場合に、その貸付金が回収できなくなるリスクをカバーする保険です。
公的保険と民間保険
貿易保険は政府全額出資の「株式会社日本貿易保険(NEXI=Nippon Export and Investment Insurance)」によって運営されています。
近年は民間の保険会社が扱う貿易保険も増加しており、民間の扱う貿易保険は「輸出取引信用保険」というような名前が使われています。
公的保険と民間保険とではどのような違いがあるのでしょうか。
● 提供主体
公的保険:公的な機関や政府が提供します。
多くの国で輸出信用機関や貿易保険機関が公的な貿易保険を提供しています。
例えば、米国のエクスポート・インポート・バンク(Ex-Im Bank)や日本の日本貿易保険(NEXI)などがあります。
民間保険:民間の保険会社が提供します。
民間の保険会社は市場原則に基づいて運営され、企業や個人に対して保険商品を提供します。
● 提供形態
公的保険:通常、公的保険は政府が出資する機関や公的機関を通じて提供され、政府が一定の補助金や保険契約の裏付けを行います。
民間保険:市場経済の原則に基づいて提供され、契約条件や保険料などが市場の競争によって決定されます。
● 対象となるリスク
公的保険:一般的には政治的リスクや輸出先国の不安定な経済情勢、決済リスクなど、公的機関が特に重要視するリスクに焦点を当てています。
民間保険:商業的リスクや商品の損傷、自然災害、輸送中の事故など、広範なリスクに対応しています。
● 補助金やサービス
公的保険:公的保険は時に政府の補助金やサービスと組み合わせて提供され、輸出企業にとってより手頃な保険料やより広範なサポートが得られます。
民間保険:民間保険は一般的に市場競争が原則であるため、契約条件や補助金が公的保険に比べて柔軟ではありませんが、その分企業は様々な保険会社から選ぶことができます。
【まとめ】貿易保険とは?海上保険との違いや種類について
- 「海上保険」は輸送中の貨物の損傷や滅失などによる物的損害をカバーする保険であり、「貿易保険」は戦争やテロなどにより超過した運賃や回収不能になった商品代金などの金銭的損害をカバーする保険
- 貿易保険は、海外取引の経験が浅い企業向けの「個別保険」と、複数の取引先との海外取引を継続または反復しておこなう企業向けの「包括保険」がある
- 「公的保険」は政府の補助金やサービスと組み合わさった広範なサポートを得ることができ、「民間保険」は公的保険ではカバーしづらい部分を補填することができる
株式会社サンプランソフトは、30年間、一貫して貿易システムに特化してきたシステムベンダーです。
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